ここでは、その一端である、〈江戸戯画〉〈明治時代の雑誌〉〈原画’(ダッシュ)〉などを紹介しています。
江戸戯画
江戸時代の戯画本・木版画を約250点収蔵しています。昨今、江戸時代の浮世絵を扱った美術展や専門誌の特集などが人気を集めていますが、マンガという観点から江戸戯画を読み直す試みはほとんど行われてきませんでした。現在のマンガ文化の萌芽・連続性をこれらのユニークな作品達から見出すことで、マンガ研究のみならず、美術史にも新たな視点を提供できると考えています。
なお、当館に収蔵されている江戸戯画や明治・大正期の諷刺マンガ雑誌のほとんどは、マンガ史研究家の故・清水勲によって集められたコレクションとなっております。
例
■鳥羽絵本
江戸時代中期、親しみやすい絵柄で人気を博し、大量印刷され、庶民から人気を博した鳥羽絵本。
当館では、マンガを多くの人が楽しむ大衆メディアとして捉えていますが、鳥羽絵本はその素地を作ったひとつかもしれません。当館が保管する最も古い年代の資料になっています。
「文凰簏画」
河村文鳳 1800(寛政12)年
「鳥羽絵欠とめ」
竹原春潮斎 1720(享保5)年
「文凰簏画」
河村文鳳 1800(寛政12)年
「鳥羽絵欠とめ」
竹原春潮斎 1720(享保5)年
■特徴的な表現がみられる江戸戯画
考えていることや話し言葉をあらわす「吹き出し」、絵を連続して見せることによってストーリーを展開する「コマ」など、現代のマンガにも通じる表現が江戸戯画に散見しています。マンガ表現のルーツを探るひとつの手掛かりとして興味深い資料です。
もちろん、吹き出しやコマなどの表現は、日本特有の表現ではありません。海外のカートゥンなどでも古くから見ることができます。それらと合わせ見ることが、多様なマンガ史観を生む上で大切だと考えています。
「浮世ハ夢だ夢だ」
筆者不詳1865~68(慶応期)年頃
「諸職吾沢銭」
筆者不詳 1855(安政2)年
「浮世ハ夢だ夢だ」
筆者不詳1865~68(慶応期)年頃
「諸職吾沢銭」
筆者不詳 1855(安政2)年
「狐にばかされる」
歌川芳虎 1857(安政4)年
「道化武者づくし」
歌川国芳 1858(安政5)年
「狐にばかされる」
歌川芳虎 1857(安政4)年
「道化武者づくし」
歌川国芳 1858(安政5)年
■諷刺画としての江戸戯画
当館では、江戸時代の天保期(1830~1844年)頃から流行した江戸幕府の諷刺画を多数収蔵しています。諷刺画とは、政治や社会、ひいては人間そのものをするどく観察し、その欠点などを笑いを通して遠回しに批判する絵のことです。
幕府の理不尽な弾圧により、浮世絵や役者絵に対する取り締まりが厳しくなったこの時代、発禁の網をかいくぐり、庶民の間でヒットした諷刺浮世絵は、様々な表現方法を生み出すきっかけとなりました。
同時に諷刺を読み解く庶民のリテラシー向上につながっています。諷刺画の流行は、その後のマンガ文化の発展に欠かせない要素です。