今から60年以上も昔、日本はまだ貧しかった。紙芝居なんかがこどもの楽しみだった。テレビも、近所に数件しかないテレビ持ちのお宅に押しかけていって、プロレスなんかを見せてもらった。
そんな時代でも、こどもがぜいたく盛りだくさんの大満足を味わえるチャンスがあった。たくさんの別冊付録があいだにはさまって、豪華なハンバーガーみたいに膨れてはみだしそうな月刊こども雑誌を、書店で抱きかかえるときだった。とくにお正月号は30大付録がついたこともあって、マンガの別冊が10冊以上もはさんであったことがある。
ばんざーい、ばんざーい、アトムも鉄人も、たっぷり読めるぞ。スカスカだった本箱もいきなりいっぱいになるんだ。こんな幸せ、感じたことがない!
もちろん、こんな大サービスができたのは、大人に事情があったからだ。昭和30~40年代に日本の経済がやっと回復して、こどももお小遣いがもらえるようになると、月刊のこども向けマンガ雑誌がたくさん創刊された。
すると競争がはじまって、たくさんのおまけや付録をドンドンつける「サービス大合戦」になった。こどもはよろこんだけれど、こういう競争はこどもにもよくないというので、禁止されることになった。これに代わって、月刊だったこども雑誌は、大人と同じように週刊になった。駅でも売られるようになったんだ。
付録をつけて売ることは今ちょっと復活しているけれど、昭和の別冊付録みたいに「大盛り」感を味わえない。
今はまぼろしになった昭和の別冊マンガを、もういちど、大盛りで見せたいんだ。
京都国際マンガミュージアム/「大マンガラクタ館」館長 荒俣宏